ドアが開きそれまで中でごった返していた人々がまるでどっと押し寄せてくる荒波のごとく流れ出ていく。それを横目で見送ってから改めて列車に乗り込み、自分が入ってきたのとは反対側の所へ歩いていき、そして壁に寄りかかった。
窓ガラスを挟んでの向こう側にあるホームでは、少し前まで自分がそうしていたように、列車を待つ人々が映し出されていた。それは必然的にまだ列車が到着していないのを暗に示しているかのようだ。
不意に欠伸が出る。昨日はあまり寝れなかったからか、それとも部活で必死になりすぎていたのか、いつもより数段身体が重い。と言うよりは厳密に言うとだるいの領域に入る。そこは人それぞれだろう、という比較的どうでもいいことを考えつつ、また欠伸をした。
すると、もうすぐこの自分たちが待っていた駅から去ることをしきりにアナウンスは告げ始め、そして閉じるドア。自分たちは今しばらくの間、密閉された四角い箱にある空間で待たなければならない。列車が次の駅まで車輪をこぎ終るまでは、だ。
一瞬だけ後ろに引っ張られた感覚がした後、ゆっくりゆっくりと列車はレールに沿って動き始めた。徐々に引っ張られる感覚がなくなって通常の状態に戻る。
そうして列車は色々な乗客を乗せつつも進み始めた。心なしかカタンコトンという音が列車自身の軽やかな足取りに思えてくるのは気のせいだろうか。
彼はこんな暗闇に包まれた道を一人で走っていて寂しくはないのか。それとも自分が考えるのとは逆で、運転手と車掌がいるから心細くはなくかえって楽しさで胸が一杯なのだろうか。そう考えると余計に『カタンコトン』と聞こえる音が楽しさを表すスキップに思えてきた。
疲れているせいか柄にもないことを考えてしまう。早く家に着いて一浴びしたいものだ。そう思い、先ほどまで頭の中で展開させていた取るに足らない考えを夜の空に放り出した。人間疲れているときは、どうしてもトンチンカンな発想にたどり着きやすい。それと焦っているときもまた然りだった。
青年はただ何気なく窓の外に広がっている景色を見ていた。これといって何かをする気も起きず、かといってやるべきこともないからだ。
ふとすぐ隣にある席に座っている女子高生に目をやる。すると彼女は見るにしきりにメールをうって送り続けているようだ。彼氏とケンカでもしているのか、それともケンカの相手は友達なのか、せわしなく口を震わせている。
そして陰りが見え、いまにも泣き出しそうな表情をしている女子高生。やはりケンカか?と青年は気だるく感じてた頭でそう推理する。
しかし、どうでもいいという考えに至って、また青年は相変わらずの調子でメールを打ち続ける女子高生を目で一瞥し、視線を窓の外へ戻した。
今夜の夕食は何だろうか。珍しく部活の仲間たちと一緒になって食べに行ってないから空腹で仕方が無かった。一刻も早く岐路に着いて温かい食事にありつきたい、今はただそれだけしか考えられないでいた。
もうすぐ一日が終わる。だが、それは明日の始まり…。列車はそれを重んじているのかただただ『カタンコトン』と次の駅へ走り続けていた。