長靴猫の軌跡

・ある日、長靴を履いた猫は我ら人間を殺めた。そして残ったのは一匹の長靴猫と一人の『食い倒れ騎士』だった。 ※短編や長編などが書き次第、更新していきます。
・長編一覧
闇烈火〜前書きキャラ紹介 2-1
天地創造〜

・短編一覧
つながりの糸 列車 “ネメシスとタナトス”
(「朔弥、あとは俺がやる。朔弥は貸出票やノートに記入して行ってくれないか」
「ん? いいのか」
「ああ、こういうのは俺がやる方が効率良いからな」
「分かったよ」

あっさりと了承された。なので、そさくさと本を持ち上げ指定の場所に一冊二冊と本を納めていく。今日もいつものように、人が結構図書室に居座っている。なかには男女の二人組みで何やら参考書を開き、たがいにペンを走らせ合っている生徒もいた。おそらく今日やった授業を復習しているのだろう。
三人寄れば文書の知恵と言うが、二人でも充分に知恵は出し合えるのではないか?ふとカップルが勉強している姿を見て、そんな考えが頭を過ぎる。それとも二人では客観的な判断や視線を持つことが出来ないことから、あえて二人を三人にしているのだろうか。そんな考えも浮かび上がった。
無論例のカップルのことなど眼中すらなく、ここを利用する単なる客でしか見てない。とっとと本を全部本棚に納めて戻ろう、そんなことをぼんやりと考えている有様だった)
 茄於留(カオル)は苛立っていた。別段不機嫌になる出来事には遭遇していない。しかし、どこかモヤモヤとしたものが胸の中で渦巻いている。茄於留はそれを振り払うかのごとく頭を掻きむしった。
 だが、所詮は気休めで気分は一向に晴れずに悶々とした時間が過ぎていく。何故なのか原因が分からないだけに余計に苛立ちを呼び寄せる始末。

 何となく気だるさを意識した茄於留は大きくため息をつき、何気なしに窓の外から見える景色を見る。窓から景色を見れば、気分は晴れなくとも心を無にすることができると思ったからだ。
 熱弁を揮っている教師の講義など何処吹く風でただひたすらに窓から見える世界に目を凝らす。晴天だが、時折聞こえてくる咆哮と聞き間違おう風の音、大きく揺れている木々、そして小刻みに震える窓・・・風が強いのは明らかだった。
闇烈火〜プロローグ『悲しみの果てに』〜2―1
※08 1/27 更新、文章修正。

「大丈夫ですか?レンドさん!」
 身体を揺さぶるもぴくりともしなかった。
 倒れている青年の腕に手をやる。脈は少し弱く、目をすばやく走らせ身体中を見渡しても、身体のあちこちから血がどくどくと流れている。
 どう見てもとても危険な状態だった。早急に手当てしないと黄泉の世界へ旅立たせてしまう。

 横たわっている青年を揺らして起こそうとしてたが、まずは傷を手当てする方が先だと気づいてから、はやる気持ちをどうにかして抑えた。それから自身が使える特殊な能力、万物を司る源“エナジー”を駆使して、一つずつ慎重に開いた傷を塞いでいき治療する。

 だが、治療するのが遅かったのか目を疑うような現実を突きつけられた気分に次の瞬間襲われた。なんと青年の唇が徐々に紫色になり、肌も土気色になっているのを視界全体で捕らえたからだ。
 早く手当てしないと青年は二度と起き上がることもなくなってしまう。かといって焦りの心を持ったまま動くと失敗を呼び寄せる危険性があった。
“…想いをつなぐPRG…”

ふと俺は必死に売り上げを伸ばそうとそんな文句を垂れ流すCMに見入っていた。前世からの因縁で出会う仲間たちが題材になっているゲームらしい。
そう言えばサークルのヤツが言ってたな。中々の力作でやりがいがある、と。今度大学帰りにちょっくら買いに行ってくるとするか。

「何を見てるのかしら?エレボス」
ふとCMに見入っていると後ろから声をかけられた。時折わざわざ俺の家まで押しかけ、掃除や炊事などを実行してくれる後輩に当たる女性だ。ツインテールにしばられた髪が歩くごとに揺れる。その様はまるで彼女の意思を代弁しているかのように喜んでいるようでもあった。
 ドアが開きそれまで中でごった返していた人々がまるでどっと押し寄せてくる荒波のごとく流れ出ていく。それを横目で見送ってから改めて列車に乗り込み、自分が入ってきたのとは反対側の所へ歩いていき、そして壁に寄りかかった。

窓ガラスを挟んでの向こう側にあるホームでは、少し前まで自分がそうしていたように、列車を待つ人々が映し出されていた。それは必然的にまだ列車が到着していないのを暗に示しているかのようだ。

不意に欠伸が出る。昨日はあまり寝れなかったからか、それとも部活で必死になりすぎていたのか、いつもより数段身体が重い。と言うよりは厳密に言うとだるいの領域に入る。そこは人それぞれだろう、という比較的どうでもいいことを考えつつ、また欠伸をした。

すると、もうすぐこの自分たちが待っていた駅から去ることをしきりにアナウンスは告げ始め、そして閉じるドア。自分たちは今しばらくの間、密閉された四角い箱にある空間で待たなければならない。列車が次の駅まで車輪をこぎ終るまでは、だ。
一瞬だけ後ろに引っ張られた感覚がした後、ゆっくりゆっくりと列車はレールに沿って動き始めた。徐々に引っ張られる感覚がなくなって通常の状態に戻る。

そうして列車は色々な乗客を乗せつつも進み始めた。心なしかカタンコトンという音が列車自身の軽やかな足取りに思えてくるのは気のせいだろうか。
彼はこんな暗闇に包まれた道を一人で走っていて寂しくはないのか。それとも自分が考えるのとは逆で、運転手と車掌がいるから心細くはなくかえって楽しさで胸が一杯なのだろうか。そう考えると余計に『カタンコトン』と聞こえる音が楽しさを表すスキップに思えてきた。
疲れているせいか柄にもないことを考えてしまう。早く家に着いて一浴びしたいものだ。そう思い、先ほどまで頭の中で展開させていた取るに足らない考えを夜の空に放り出した。人間疲れているときは、どうしてもトンチンカンな発想にたどり着きやすい。それと焦っているときもまた然りだった。

青年はただ何気なく窓の外に広がっている景色を見ていた。これといって何かをする気も起きず、かといってやるべきこともないからだ。
ふとすぐ隣にある席に座っている女子高生に目をやる。すると彼女は見るにしきりにメールをうって送り続けているようだ。彼氏とケンカでもしているのか、それともケンカの相手は友達なのか、せわしなく口を震わせている。
そして陰りが見え、いまにも泣き出しそうな表情をしている女子高生。やはりケンカか?と青年は気だるく感じてた頭でそう推理する。

しかし、どうでもいいという考えに至って、また青年は相変わらずの調子でメールを打ち続ける女子高生を目で一瞥し、視線を窓の外へ戻した。
今夜の夕食は何だろうか。珍しく部活の仲間たちと一緒になって食べに行ってないから空腹で仕方が無かった。一刻も早く岐路に着いて温かい食事にありつきたい、今はただそれだけしか考えられないでいた。

もうすぐ一日が終わる。だが、それは明日の始まり…。列車はそれを重んじているのかただただ『カタンコトン』と次の駅へ走り続けていた。
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